本記事にはネタバレとなる内容があるのでご注意ください。
「ソロモンの指環‐動物行動学入門」を読みました。
「動物に関するブログをやってるんだから、せっかくの機会だし動物関連の本も読んでみよう」と思い、調べたらこちらの本が紹介されていたので、さっそく読んでみました。
動物好きならドハマり間違いなしと言える作品です。
著者であるコンラート・ローレンツ氏が自身のエピソードを、動物行動学と織り交ぜながら繰り広げられていく内容となっています。
動物行動学の祖の1人とも言える彼は、動物に対して深い愛情を持ち、動物を人のように、いやむしろ彼が動物に成りきっているような様を、一節一節から伝わってきます。
あと「動物行動学入門」と小難しそうな副題がついていますが、そういった学問に全く知識が無い僕でもスラスラと読めたので、動物好きな方なら一読の価値はあります。いや、もう必読レベルです。
ここからは少し砕けた口調で本書について感想を述べていく。
丁寧口調だとどうも説明っぽくなって書きづらくなっちゃうんだよね・・・。
著者のモットー
「観察のために動物を常にオリに入れておくなぞ言語両断、 動物の本質を知るには精神的肉体的共に健全な状態でなくてはならない。」
という考えがモットーである動物行動学者の彼は、飼育しているコクマルやハイイロガンなどをオリには入れず、基本的に昼は空へ放っているそうだ。
空に放ってやったら鳥は逃げるんじゃないの?と当然の疑問を浮かべたが、それに対して氏はこう続けてある。
長い間檻の中の生活で精神的に苦しんでいるこれらの賢い動物たちは、すぐに逃げたりはしない。—(略)—彼らはどんなことがあっても、自分たちが続けてきた生き方を変えようとはしない。それだから、長い間檻で飼われていた動物を突然放してやってたときは、帰り道さえみつかれば必ずもとの檻へ帰ってくる。大部分の小鳥たちはあまりばかなので、その帰り道をみつけられないだけなのだ。
ソロモンの指環-動物行動学入門-171P
なるほど。決して鳥たちは「逃げようと」してたわけじゃなくて単に「飛びたかった」だけのようだ。
とはいえ、飼っている鳥より大型の鳥に襲われたら一たまりもないだろう。
僕は鳥類を飼ったことがないので、責任ある意見は言えないが、鳥類を飼っていて、オリにずっと入れさせている方は外へ、とは言わずせめて部屋の中でも自由に飛ばせる時間を与えてはいかがだろうか。
僕も、実家ではネコを飼っていて、時折アイツらが外を眺めていると外に出してやりたくなる。 ただ、放し飼いをしていたネコが事故死したのを考えるとどうしてもためらってしまうんだよな・・・。
たくさんの動物のおもしろエピソード
飼っている動物と、家族同然のように長い年月を過ごしているK・ローレンツ氏は、おもしろおかしいエピソードをたくさん持っていて、今回本書に載っているのは、ほんのごく一部である。
その中でも印象的だったのがコクマルガラスのメス2匹が、1匹のオスを巡って熱いバトルを繰り広げるエピソードだ。
恥ずかしながら僕は、動物のつがいというのは特にこだわりなく決めているものなんだろうと思っていた。 それこそ、人間でいう「節操なしで獣のような」生き物のような感じである。
しかし、どうやらこのエピソードによるとこだわりを持つどころか、人間さながらの恋愛ストーリーが繰り広げられているのだ!
コクマルガラスが性の違いに気付き始めるのは固体によってまちまちで、基本的に時期同士のカラスが結婚をする。
あるメスのカラス、リンクスグリューンは周りと比べて少し遅く成熟し、パートナーとなるカラスを探し始めた。
リンクスグリューンはあろうことか既婚のオスガラスに惚れてしまい、求愛をし始めた! もちろん妻のカラスは「何私の夫に手出してんのよ!」とでも言わんばかりにリンクスグリューンを攻撃して追い返す。
しかしその程度で彼女の恋は覚めないのか、ひたすら求愛し続ける。人間の世界だとストーカー規制法に引っかかるレベルではないだろうか。
あまりにもしつこすぎる求愛の果て、慣れてしまったのかリンクスグリューンは妻のカラスにも追い立てられず、挙句の果てには夫のカラスはリンクスグリューンに心を開きつつあるのだ。
次第に妻がリンクスグリューンを追いやっていたのが、逆にリンクスグリューンが妻を追い払うようになった。
このとき、夫の心境はいかがなものか?
妻もリンクスグリューンも愛しているけど、二匹が自分を巡って争っている・・・。 昼ドラも真っ青なドロドロ具合で、夫は強烈なストレスを感じていただろう・・・。
そんな昼ドラの最終回は、なんとも驚くべき結末で終わった。
夫とリンクスグリューンが駆け落ちしたのである。
妻、いや元妻や仲間たちがいる巣を置いてどこかへ旅立ったそうだ。
コクマルガラスの夫婦は基本、生涯ずっと付き添う関係で、浮気が起こったのは極めて稀有なことらしい。
カラスに対しては「賢い」程度の認識しかなく、このエピソードを読んだ時は衝撃が走った。 「賢い」の一文字では表しきれない知能をカラスは持ってるのだ!
にわかには信じがたい出来事だが、カラスも不倫をするのである。 夫と元妻には同情する。仲睦まじい夫婦生活が1匹の悪女によってめちゃくちゃにされたのだから。
これは、本書のほんの一部のエピソードである。他にもK・ローレンツ氏が経験したユニークな出来事がたくさんある。
主題「ソロモンの指環」について
本書の主題である「ソロモンの指環」は、神話に登場する指環で、天使や悪魔を従え、動植物の声を聴く力を与えるそうだ。
動物の声を聴く、というのは古くからの人類の願いの1つだったのではないだろうか? そんな能力を得られるのならぜひとも手に入れたい・・・、と考えるのが普通の人だが、この本を読むと決してそうとも思えなくなった。
ローレンツ氏はその人生を動物に捧げたと言っても過言ではなく、長い月日を動物と共に暮らしてきた。
そうすると、次第に動物の感情や言葉を理解できる。 ネコとかイヌを飼ってる人もそうではないだろうか? 彼の場合なら、ハイイロガンやコクマルガラスである。
動物と心が通った瞬間のあの充足感というか、幸福感というものは指環では得られない感情だと思う。
ローレンツ氏が鳥たちと意思や感情を通わせている描写を読むと、その感動がこちらまで伝わってくるのだ。
彼は本当に動物が大好きなんだと理解できる。文章の節々から愛情を感じる。
生粋の動物好きが書いた「ソロモンの指環」、動物好きなら本を読まない人でもスラスラ読めるはず。ぜひ、読んでみてほしい。